オスラー病と膵臓

HHTの診断基準の項目の一つに内臓の血管奇形があります.脳、肺、肝臓、消化管に血管奇形があるかどうかで、通常、判定されますが、膵臓にも血管奇形が認められることがあります.


膵臓の血管奇形には、2種類あり、毛細血管拡張 telangiectasiaと動静脈瘻 arteriovenous fistulaがあり、通常、無症状です.これらの報告は多くは無いですが、腹部の造影CTを見ていると、決して珍しくはありません.診断は、古典的にはカテーテルによる血管撮影(腹腔動脈撮影や上腸間膜動脈撮影)で可能ですが、殆ど症状を出すことの無い膵臓の血管奇形ですから、リスクの低い診断方法が望まれ、ダイナミックCT (dynamic CT)で行われます.造影剤の静脈注射開始から30-35秒で撮影を開始する動脈相画像と70-80秒後に撮影を開始する門脈相画像の2回撮影を行いますが、膵臓の血管奇形は、動脈相でのみ認められます.


Lacoutらの報告 [1]では、オスラー病患者さんの31%に膵臓病変があり、ALK1遺伝子変異のある患者さんの54%に膵臓病変がありました.26%が毛細血管拡張で、11%が動静脈瘻でした.Barralらの報告 [2]では、オスラー病患者さんの58%に膵臓病変があり、42%が毛細血管拡張で、16%が動静脈瘻でした.これら二つの報告の膵臓病変はすべて無症状でした.この二つをまとめると、オスラー病患者さんの30-60%に膵臓病変があり、毛細血管拡張と動静脈瘻は、2:1程度の比率であるになります.


症状を出したオスラー病における膵臓病変の報告 [3]は1例だけありました.68歳の女性に急性膵炎による腹痛が一月に数回起こるようになり、内視鏡ではファーターの膨大部(ampulla of Vater)の拡大が認められました.粘膜下出血により繰り返す膵炎が起こっていたようです.ドップラーではその部の粘膜下には多くの血流が認められ、血管撮影では下膵十二指腸動脈が、病変部で高血流の濃染像を作っていました.コイル塞栓術で、濃染像は消えましたが、出血合併症が危惧され、内視鏡的乳頭切開は施行されず、結局、開腹して、十二指腸経由で、外科的乳頭切開を施行しています.その二十ヶ月の経過では、膵炎の再発は無いそうです.


   膵臓の毛細血管拡張(論文1から)       膵臓の動静脈瘻(論文1から)


  



文献


1. Lacout A, Pelage JP, Chinet T, Beauchet A, Roume J, Lacombe P: Pancreas involvement in hereditary hemorrhagic telangiectasia: assessment with multidetector helical CT. Radiology 254:479-484, 2010


2. Barral M, Sirol M, Place V, Hamzi L, Borsik M, Gayat E, Boudiaf M, Soyer P: Hepatic and pancreatic involvement in hereditary hemorrhagec telangiectasia: quantitative and qualitative evaluation with 64-section CT in asymptomatic adult patients. Eur Radiol 22:161-170, 2012


3. Sakai N, Yoshidome H, Ito H, Kimura F, Shimizu H, Togawa A, Ohtsuka M, Kato A, Yamaguchi T, Yoshikawa M, Miyazaki M: Successful treatment for ampullary submucosal bleeding-induced pancreatitis: a rare sequla of hereditary hemorrhagic telangiectasia. Hepatogastroenterology 52:270-273, 2005



2016.6.21 記


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