HHTと肺高血圧症 (pulmonary arterial hypertension)

 

肺高血圧(PAH)には、家族性 familialの肺高血圧と特発性idiopathicの肺高血圧があります.ともに第2染色体の長腕(2q31-q33)にある1038個のアミノ酸からなるBMPR2 (bone morphogenic protein receptor 2)遺伝子の異常が知られています.この遺伝子を持っていても肺高血圧を発症するのは10-20%と高くはありません(浸透率が低い).20-30代の女性に多く、小児期に発症するものが20%近くあります.

HHTの患者さんの15-20%に少なくとも軽度の肺高血圧症があるとされます(肺動脈の収縮期圧 > 40 mmHg).遺伝性出血性毛細血管拡張症 HHTの原因遺伝子として、endoglin (ENG)ALK1 (activin receptor-like kinase 1) 遺伝子の異常が知られています.後者のALK1遺伝子は503個のアミノ酸からなり、その異常のHHT患者さんの中で、肺高血圧症の方がおられ、その遺伝子を調べるとALK1のキナーゼ活性領域 kinase domainという領域に集中してその遺伝子異常があることが分かってきました.HHT type 2(ALK1の変異による)と肺高血圧は知られていますが、HHT type 1 (endoglinの変異)と肺高血圧の合併も頻度は低くなりますがあります.合わせてHHT患者さんの1-2%程度と推定されます.



BMPR2遺伝子もALK1遺伝子もTGF-beta superfamilyの属し、その機能は、各種細胞の機能調節や発生過程の組織分化を担うとされ、肺高血圧症やHHTの発症に関与していると考えられています.これらの遺伝子異常が、血管の異常な細胞増殖につながり、肺高血圧になることが推測されています.


HHT2の原因遺伝子のALK-1は、肺の小動脈に増殖性の変化をきたし、肺の血管抵抗(pulmonary vascular resistance: PVR)の上昇を来たす原発性肺高血圧症 PAHとされます.HHT2の患者さんの15%が、肺高血圧症と言われています.HHT type 2の患者さん、特に中年以降の女性患者さんは、肝臓内のAV shuntを合併することが多く、この短絡血液が多いために、右心系の負荷が多くなり、心不全や2次性の肺高血圧PCPH: post-capillary pulmonary hypertension)を合併することが、しばしば認められます.この場合、BMPR2遺伝子変異による肺高血圧とは、メカニズムは異なると考えられます.HHT type 2の患者さんの方が、BMPR2遺伝子変異の患者さんより、予後が不良とされています.


このようにHHTでは、心拍出量の増加による肺高血圧症も起ることがあり、上記の肺の血管抵抗の上昇による肺高血圧症と病因は異なります.心拍出量の増加は、肝臓内の大きな動静脈シャント(瘻)で起ったり、鼻血・消化管出血による高度の貧血でも起り、これが肺高血圧症の原因にもなります.

経胸壁心臓超音波検査は、まず行われる検査で、肺内シャントの検出や肺動脈圧の推測、右心室拡大の評価などが可能です.しかし、肺高血圧症の診断とその種々の原因の鑑別には、右心カテーテル検査が必要です.肺動脈圧・肺動脈閉塞圧、心拍出量などから、肺血管抵抗を算出し診断します.

心拍出量の増加による肺高血圧症と肺の血管抵抗の上昇による原発性肺高血圧症は、治療法も異なり、その鑑別は重要です.原発性肺高血圧症には、種々の内科的な治療が進歩してきていますが、HHTの他の症状(例えば、鼻血などの出血性病変)にあまり影響のない治療が選択されます.肝臓内のシャントによる心拍出量の増加による肺高血圧症に対して心不全治療・貧血治療・不整脈治療などが行われますが、抜本的な治療はなく、唯一、肝移植が有効とされています.

参考文献

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藤原摩耶、八木寿人、松岡瑠美子、他:原因遺伝子と修飾遺伝子.Nippon Rinsho 66:2071-2075, 2008

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2009.9.22記載、2013.8.7、2013.8.23、2014.10.17, 2014.10.20、2016.2.26、2023.6.21 追記