瀰漫(びまん)性肺動静脈ろうと低酸素血症
オスラー病の患者さんの30-50%に、肺血管奇形、つまり肺動静脈ろうが認められます.そのため、呼吸困難、喀血、胸腔内出血、ばち指などの症状を出しますが、特に問題になるのは、奇異性塞栓症により脳梗塞や脳膿瘍になることです.
この肺動静脈奇形(ろう)が、瀰漫性にある場合、つまり非常に小さな病変が多数ある場合、血管内治療や外科的切除ができないことが、1-2%ぐらいの頻度であります.一般的に、肺動静脈ろうの栄養動脈が、2-3 mm程度の太さがあると、カテーテル治療の良い適応になるのですが、1 mm程度以下の栄養動脈がたくさんの小さな病変を栄養している場合、カテーテル治療は不可能なことが多いです.
このような場合、肺移植が治療の選択のひとつになってきます.瀰漫性の肺動静脈ろうに対する肺移植の良好な結果の症例報告も多くはないですがあります.ここで難しいのは、肺移植を選択すべきか、保存的に経過をみるほうがいいのかの選択です.近年、肺移植の成績も良くなっていると思いますが、オスラー病の患者さんの肺移植の経験は、世界的に見ても多くはありません.
欧米では、肺移植の成績に対して、必ずしも保存的な治療をした場合と生存期間に大きな差がないこと、保存的な治療でも日常生活が必ずしもかなり制限されるとも言えないこと、などから、オスラー病の患者さんの瀰漫性の肺動静脈ろうに対する肺移植は積極的には勧められていないのが現状です.
実際には、個々の患者さんの臨床症状や病態・呼吸状態を考慮し、肺移植や保存的治療の適応が決められるのだと思います.
国内では、1998年の初めて生体肺移植が行われ、2021年4月時点で、約860人が肺移植を受けています.瀰漫性(多発性)の肺動静脈瘻も肺移植の対象疾患ですが、肺移植には前提として、癌などの合併がない、肺以外の臓器に異常はない、という移植の条件があり、オスラー病の患者さんは、脳に10-20%、肝臓に50-70%、消化管に50%程度の血管奇形の合併があるので、肺移植を考慮するときに問題になるように思います.(考慮が必要で移植ができないという意味ではありません).
肺移植には、脳死肺移植と生体肺移植があり、後者は御家族がドナーになることがほとんどです.脳死移植の頻度が低い日本では、生体肺移植が30%程度です.ここで問題になるのは、常染色体顕性遺伝をするオスラー病では、御家族にも同じオスラー病の患者さんがおられることが多く、その場合はドナーにはなれないと思います.待機期間の長い脳死移植の期間を待てない臨床症状の場合に生体肺移植が考慮されます.
もう一点、オスラー病における肺移植で考慮が必要なのは再発です.移植した肺にオスラー病の血管奇形が再発するかどうかです.肝移植のデータから類推すると、長期のフィローで、移植肺に再発することが推測されます.オスラー病の肝臓移植の場合、15年で50%に再発するようです.しかしこの再発が、移植前と同じ病態に再発するかは別問題で、詳しいデータはないと思います.
オスラー病におけるチアノーゼと毛細血管拡張症
オスラー病ではその診断時に、毛細血管拡張病変があるかないかの診断は重要です.毛細血管拡張病変の出やすい部位は、舌、口唇、口腔内粘膜、手指(特に指の腹)、耳介、顔面、体幹などですが、これらは小児や若年者では出現しにくく、中年以降に出現することが多いです.
一方、チアノーゼは、毛細血管血中酸素飽和度が67%以下、還元ヘモグロビン濃度が、5g/dl以上の場合に、年齢に関係なく、口唇、口腔粘膜、耳朶、指先など表皮が薄く、メラニン色素の少ない部位の皮膚・粘膜の青紫色変化として認められます.
オスラー病においては、通常、心疾患はなく、重症の肺動静脈ろう、特に両側瀰漫性の肺動静脈ろうを合併した場合、上記条件下で、チアノーゼが小児でも出現しますが、毛細血管拡張病変は原則、大人に出現するので、小児で認められることはありません.毛細血管拡張病変とチアノーゼは全く異なった病変です.しかし手指や顔面などでの病変は、臨床像は全く異なりますが、オスラー病ではチアノーゼも毛細血管拡張病変も出現することがあり、その鑑別は重要です.
チアノーゼがある場合、血液の凝固因子の低下、血小板減少や機能以上により出血傾向を呈することがあり、「鼻出血」歯肉出血、月経過多などが認められます.慢性の低酸素症により血管新生も認められることがあります.
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2023.7.19 記載、7.28、8.3 追記