脳血管の増殖性血管症(CPA)

Cerebral proliferative angiopathy (CPA) は、脳(血管)増殖性血管症とでも訳すのかもしれません(日本語訳はありません).脳血管の病変が非常に大きい、または関与する領域が広い場合が多く、巨大な動静脈奇形(AVM)との理解がされることもありました.古くは、巨大な動静脈奇形 huge AVM といわれた症例も入っていると思われます.通常の動静脈奇形と臨床的にも、画像診断学的にも異なる点が多く、従って治療の方針も異なる血管奇形の一種とされます.まとまった報告でかつ疾患概念として報告されたのはLasjaunasらのものだけです [Lasjaunias 2008].従って、このような疾患概念が正しいかも検証されていません.


その臨床像は、若年の女性に多く(平均22歳、67%が女性)、痙攣(45%)、高度の頭痛(41%)、stroke-like episodeと呼ばれる一過性脳虚血発作にも似た症状で発症し、出血は比較的少ないです(12%).またいきなり出血で発症することは少ないです.しかし、一度出血すると、反復性の出血があるとされます.(通常の動静脈奇形では、一過性脳虚血発作にも似た症状で発症することは多くはありません).病変はテント上(大脳)が多いですが、テント下(小脳)にも起ります.また脳深部に病変が及ぶことが多く(85%)、逆に脳表だけに限局することは少なく(14%)、脳葉間の分水嶺 water-shed領域に多いとされます.MR 灌流血流画像で、病変部では、脳血液量は増加しており、平均通過時間も延長しています.


血管撮影の所見が特徴的であり、病変が広い割には、明らかな栄養動脈はなく、栄養動脈の拡張はないか、あっても軽度で、血流増加に関係する動脈瘤 flow-related aneurysmはなく(通常の動脈瘤の合併はあります)、栄養動脈に狭窄・閉塞性変化が認められることがあります.この栄養動脈の狭窄や閉塞性変化は、通常の動静脈奇形では認められません.(1-2%で、動静脈奇形の栄養動脈に狭窄・閉塞性変化がきて、虚血症状を呈することがあるとされます [Enam 1999]).早期静脈描出 early venous drainageは認められないことが多いとされますが、私が診ている患者さんは皆、 早期静脈描出 があります.硬膜からの栄養動脈 transdural supply (59%)や強い濃染像 stainなど血管新生 angiogenesisが認められます.この硬膜からの栄養 transdural supplyは、病変だけでなく、正常な脳組織の栄養することが多いです.動脈相晩期から静脈相早期まで造影剤のpuddling像(puddle: 水たまり)が認められ、毛細血管の拡張 capillary angioectasiaが認められます.導出静脈の拡張も軽度です.


血管新生 angiogenesisは、病変での慢性の相対的な虚血が原因で反応性に起ったものと考えられます.病変内に正常の脳組織が存在し、外科的切除や定位放射線治療、経動脈的塞栓術といた治療法は通常、適応とは考え難く、限られた症例に、部分的な塞栓術 target embolizationや硬膜からの側副路の改善目的に burr hole surgery(小さな穴をあける手術)が行なわれたことがありますが、その有効性は証明されていません.症例報告では、 burr hole surgery による頭痛の軽減、進行性麻痺の改善などが報告されています.


かなり頻度の低い疾患であること、その疾患概念が広く受け入れられているともいえないこと、が背景にありますが、逆に、大きな通常の脳動静脈奇形をこのCPAと思い込んでしまうこともあり注意が必要です.血管撮影の所見(puddling像や 毛細血管の拡張)は特徴的で、臨床経過(薬の効かない頭痛や一過性脳虚血発作にも似た症状で発症する)も参考にしながら診断します.


私は(2017.8.3時点で)4例の患者さんを診ていますが、3人は女性で、一人は男性、初診時年齢は、5、8、19、36歳でした.36歳の方も、18歳のころ発症されています.上述の虚血発症ですが、鎮痛薬があまり効かない頑固な頭痛や進行性に神経症状を呈し、何年かすると、出血が起りました.


脳血管撮影の性能が向上し、一番最近の患者さんの脳血管撮影では、小さな遅い動静脈ろう(直接シャント)が、多数集まった病変のように映っていました.

 









36歳女性


左側頭葉、後頭葉、頭頂葉の広範囲に血管病変が認められます.












2016.5.21 土曜 に大阪市立総合医療センターで、Critical Review CPA 2016という、このCPAだけを扱い、皆でdiscussionするカンファレンスを行いました.国内の十数例の症例の検討を行いましたが、いかにもCPAが、1/3例、AVMであろうが、1/3例、どちらとも言えないが、1/3例という結果でした.これは、CPAの疾患概念の妥当性にやや疑問があること、診断基準がないこと、画像も鑑別疾患とclear cutに分けられないことなどが原因と思われます.


2021.3.8  これまで、自身でみたCPAの患者さんが、7人になりました.大きな動静脈奇形とCPAの鑑別は、いつも簡単ではないですが、疾患概念として、動静脈奇形は脳血管の形成異常(developmental failure)であり、CPAは、正常の脳血管の虚血刺激に対する異常な反応(abnormal angiogenetic response to ischemic trigger)のように思います.






頭蓋内の動静脈シャントの多くは、nidusを伴うAVMです.しかしAVMに似て鑑別が、時に難しい疾患があります.1つがCPAであり、もう一つが、動静脈シャントを伴うDVA(静脈性血管奇形)です.





CPAとAVMの神経放射線学的な違いと臨床症状の違いをまとめてみました.こう見ると、両者の鑑別は、容易に思えますが、実際には、その鑑別は、容易でないことが多い.





参考論文


Lasjaunias PL, Landrieu P, Rodesch G, et al: Cerebral proliferative angiopathy. Clinical and angiographic description of an entity different from cerebral AVMs. Stroke 39:878-885, 2008


Enam SA, Malik GM: Association of cerebral arteriovenous malformations and spontaneous occlusion of major feeding arteries: clinical and therapeutic implications. Neurosurgery 45:1105-1112, 1999


2008.7.24 記、2013.2.20、2.27 、2014.6.10、2014.7.16、2014.12.9、2016.4.12、2017.8.3、2021 3 8、3.9、2021.4.13 追記


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