消化管血管奇形

 

消化管出血の管理 (国際ガイドラインから)


B1: 専門委員会は、


オスラー病関連の消化管出血を疑えば、第一選択の診断法として、上部消化管内視鏡検査を推奨します.大腸・直腸癌のスクリーニングの基準を満たす患者とSMAD4の(遺伝子変異のある、または疑われる)患者は大腸内視鏡検査も受けるべきです.


エビデンスの質:低い(82%が同意)、推薦の強さ:強い(94%が同意) 


B2:専門委員会は、


オスラー病関連の消化管出血を疑われ行った、上部消化管内視鏡検査がオスラー病の特徴的な毛細血管拡張病変が検出しなかった場合には、カプセル内視鏡検査を考慮することを推奨します.


エビデンスの質:低い(92%が同意)、推薦の強さ:強い (88%が同意)


B3: 専門委員会は、


臨床医がオスラー病関連の消化管出血の重症度をグレード分けすることを推奨し、以下の区分を提案します.


● 軽症のオスラー病関連の消化管出血:経口の鉄剤投与で、目標のヘモグロビンレベルを達成する患者.

● 中程度のオスラー病関連の消化管出血:静注の鉄剤投与で、目標のヘモグロビンレベルを達成する患者.

● 重症のオスラー病関連の消化管出血:適切な鉄剤投与でも目標のヘモグロビンレベルを達成できない患者や輸血が必要な患者.

目標のヘモグロビンレベルは、年齢、性別、症状、併存疾患を考慮するべきです.


エビデンスの質:低い(96%が同意)、推薦の強さ:強い(96%が同意)


B4:専門委員会は、


内視鏡によるアルゴンプラズマ凝固は、内視鏡検査時に控えめに使用することのみを推奨します.


エビデンスの質:低い (88%が同意)、推薦の強さ:弱い(81%が同意)


B5:専門委員会は、


臨床医が、軽症のオスラー病関連の消化管出血には経口抗線溶薬による治療を考慮することを推奨します.


エビデンスの質:低い(94%が同意)、推薦の強さ:弱い(90%が同意)



B6: 専門委員会は、


臨床医が、中程度から重症のオスラー病関連の消化管出血を静注のベマシズマブや他の全身性の抗血管新生治療での治療を考慮することを推奨します.


エビデンスの質:中程度(94%が同意)、推薦の強さ:強い(98%が同意)



「国際HHTガイドライン第2版の臨床推奨事項と国際HHTガイドライン第1版の現在推奨されている臨床推奨事項について」Annals of Internal Medicine, 2020の和訳版から


HHT Q & A 50 から

Q6.貧血の原因はなんですか?貧血の治療にはどんなものがありますか?また鉄剤を飲むとムカムカし て飲めません.どうすればいいですか?

A6. 貧血の原因はいろいろありますが,オスラー病でみられる貧血は,鼻出血や消化管出血による失血 のための鉄欠乏性貧血です.鼻腔奥の出血や消化管出血は気付きにくく,また徐々に進む貧血は症状が現 れにくいため,重症になって初めて見つかることもしばしばです.ですから,35歳以上の患者さんは, 症状がなくても,年に1回は血液検査で貧血(血色素,ヘモグロビン)の有無を調べなくてはなりませ ん.貧血が鼻出血で説明できない場合には,消化管出血の有無を調べるために内視鏡検査が必要です. 消化管病変は胃十二指腸に認めることが多く,まず胃カメラ,必要に応じ大腸カメラや小腸の観察のた めにカプセル内視鏡を行います.

中等度以上の貧血は息切れ,動悸,頭痛,倦怠感(けんたいかん)や疲れやすさなどの原因になりま すので,まず鉄の補充により自身の造血を促します.ほとんどはこれで改善しますが,重症例では輸血が 必要となります.鉄の投与には,内服と静脈注射があります.過剰の鉄は全身の臓器に沈着してしまうた め,注射の場合は必要な総投与量を計算して計画的に投与を行います.内服の場合は,消化管での吸収 調節が働くため過量にはなりにくいですが,定期的な貧血,血清鉄や貯蔵鉄(フェリチン)の検査が望 ましいです.

内服薬は数種類あり,吸収を良くし副作用を減らす工夫がなされていますが,それでも吐気・嘔吐・ 下痢などの消化器系副作用は多く,頻繁に使用されるクエン酸第一鉄では5%以上に見られます(添付文 書より).そのような場合には,内服時間の変更(食直後,就寝前)や投与量の調整(分割服用,一日 量減量),内服薬の変更(徐放剤,シロップ),胃薬併用,注射薬への変更で解決できることが多いの で,自己中断することなく主治医や薬剤師に相談してみましょう.また,鉄剤内服により便が黒っぽく なりますが、心配はいりません.貧血の程度によりますが,治療には少なくとも数か月を要しますので, 投与量や投与期間は主治医の指示を守ってください.

1. Faughnan ME, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 48:73-87, 2011

Q7.消化管の検査をする必要がありますか?どんなものがありますか?

A7. オスラー病患者さんでは,約7割に消化管毛細血管拡張症を認め,約4割に貧血の原因となる程度 の消化管出血が認められます.貧血の見られない患者さんでは消化管内視鏡検査は通常行いません.年 齢を重ねるにつれて消化管出血のリスクが増加することから,35歳以上のすべての患者さんでは1年に1 度の貧血の検査を行います.50歳以上の患者さん,特に女性は消化管出血の高リスク群です.鼻出血で は説明できない程の貧血を有する患者さんでは,出血源を特定するために消化管内視鏡検査が必要とな ります.一般的に消化管出血のスクリーニングには便潜血検査が汎用されますが,オスラー病の患者さん では鼻出血の飲み込みのために偽陽性が多く適しません.

消化管毛細血管拡張症は食道~大腸まですべての消化管にできる可能性がありますが,胃・十二指腸 に多く発生します.したがって,消化管出血が疑われた場合,まず胃カメラ,必要に応じ大腸カメラを行 います.バリウムを用いた胃・大腸透視では病変はわかりません.小腸出血が疑われる場合は,これら の内視鏡では検査できないため,長さ約2cmのカプセル内視鏡を飲むことにより、長い小腸粘膜を観察 します.カプセル内視鏡は,朝絶食下で服用し,2時間後から飲水,4時間後から食事が可能となり,約 8時間後(夕方)に終了です.撮影は自動で行われ,腹部に取り付けた記録装置に画像が保存されます.

外来で通常の生活をしながら検査が可能です.オスラー病の消化管病変から大量あるいは急性出血にな ることはまれであり,その際は他の原因を考慮する必要があります.

1. Faughnan ME, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 48:73-87, 2011

Q8. 消化管からの出血にどんな治療法がありますか?

A8.鉄剤の投与で改善しない重症貧血の患者さんは,出血が持続している可能性が高く,内視鏡を用い た止血術を考慮します.多くの出血は胃・十二指腸病変から生じるため,胃カメラを用いた止血術が有 効です.

止血術には,アルゴンプラズマ凝固(ぎょうこ:APC)やクリッピングなどがあります.APCは,ア ルゴンガスを用いることで、電極を病変に接触させず均一に浅く通電でき、他の方法に比べてリスクが 低く比較的簡便にできることがメリットと言われています.合併症は低率ですが,消化管穿孔があります. さらに止血困難な場合には内視鏡的結紮術(ないしきょうてき けっさつじゅつ:EVL)が有効との報 告もあります.小腸出血が問題となる場合には,ダブルバルーン内視鏡という特殊な内視鏡による止血術 が考慮されます.これは,二重の、風船付き内視鏡を用いて,小腸を手繰り寄せながら進めていくもので す.しかし,オスラー病が全身の血管病である以上,これらの内視鏡を用いた止血術の効果は一時的で あることが多いです.

止血作用を有する薬剤(トラネキサム酸)の内服を併用することもありますが,塞栓症のリスクを伴 うため肺動静脈奇形の有無についてあらかじめ調べておく必要があります.多数の出血病変があり再発 を繰り返すような治療困難な患者さんには,血管病変を安定化させることを目的とした以下の薬剤の全 身投与が海外では行われています.骨粗しょう症治療薬であるバゼドキシフェンやラロキシフェン,多発 性骨髄腫やハンセン病の一病型に適応のあるサリドマイド,悪性腫瘍治療薬であるベバシツマブなどが ありますが,平成30年5月現在、日本ではオスラー病の適応はありません.

1. Faughnan ME, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 48:73-87, 2011

2. 遺伝性出血性末梢血管拡張症の診療マニュアル,増補版 中外医学社

Q9. オスラー病だと寿命が短くなりますか?

A9.過去の研究では,オスラー病患者さんの寿命は,一般住民と変わらないというものと数年短いとい うものがあります.最近の研究では,オスラー病患者さんの両親(オスラー病の親とそうでない親)の 寿命を比較すると,オスラー病の親は3.3年寿命が短く,特にタイプ1は7.1年短いという結果でした. この差は合併症の多くなる45歳ごろから生じており,親世代では適切な検査と治療が行われていなかっ たことが原因と考えられます.2017年,クロアチアで開催された国際学会では,同じ研究グループが, 各病変の検査と治療体制が整った現在の患者さんでは寿命に差はなかったと報告していました.

以上のことから,各病変の適切な検査と治療が重要であることが良く理解できます.医療界において オスラー病の認知度が低い現状では,タイプに関わらず全ての病変が起こりうることを肝に銘じ,自ら 検査を受け病気を管理していく姿勢が必要です.そして,約9割の未診断の患者さんに光を当てる活動も, 患者さん会の重要な役割だと思います.

1. De Gussem EM, et al: Life Expectancy of parents with Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia. Orphanet J Rare Dis 11:46, 2016