妊娠

 

妊娠と出産 (国際ガイドラインから)


F1: 専門委員会は、


臨床医が、オスラー病患者と、受胎前診断と着床前の遺伝子検査を含む出生前診断のオプションについて話し合うことを推奨します.


エビデンスの質: 非常に低い(86%が同意)、推薦の強さ: 強い(83%が同意)


F2:専門委員会は、


脳血管奇形を示唆する症状を持つ妊婦には、非造影のMRI検査を行うことを推奨します.


エビデンスの質: 非常に低い(98%が同意)、推薦の強さ: 強い(92%が同意)


F3: 専門委員会は、


最近、肺動静脈奇形のスクリーニングや治療を受けていないオスラー病の妊婦には、以下の方針を推奨します.


●無症候性の場合には、まず肺動静脈奇形のスクリーニングを、各施設の専門技能によりバブル生食を用いた造影の経胸壁心臓超音波検査、もしくは非造影の低線量の胸部CTで行うべきです.胸部CTを行う場合は、妊娠第2期の早期に行うべきです.


●肺動静脈奇形を示唆する症状のある患者は、非造影の低線量の胸部CTで診断を行うべきです.この検査は臨床的に適応があれば、妊娠中のどの時期にでも施行可能です.


●臨床的に他の適応がない限り、妊娠第2期に入れば、肺動静脈奇形の治療を行うべきです.


エビデンスの質:中等度(88%が同意)、推薦の強さ:強い(83%が同意)


F4:専門委員会は、


オスラー病の妊婦が、未治療の肺動静脈奇形や脳血管奇形を持っている場合や肺動静脈奇形のスクリーニングを最近受けていない場合には、集学的治療チームのある3次医療センターで管理を受けることを推奨します.  


エビデンスの質: 非常に低い(94%が同意)、推薦の強さ: 強い(85%が同意)


F5:専門委員会は、


オスラー病の診断だけでは硬膜外麻酔を避けないことを推奨し、また脊髄血管奇形のスクリーニングは必要ではないとしています.


エビデンスの質:低い(98%が同意)、推薦の強さ:強い(92%が同意)



F6: 専門委員会は、


ハイリスクではない既知の脳血管奇形を持っている妊婦は、陣痛を起こして、経膣分娩を進めることができると薦めています.患者によっては分娩第2期に補助手技が必要である場合もあります.


エビデンスの質:中程度(94%が同意)、推薦の強さ:強い(94%が同意)



「国際HHTガイドライン第2版の臨床推奨事項と国際HHTガイドライン第1版の現在推奨されている臨床推奨事項について」Annals of Internal Medicine, 2020の和訳版から


HHT Q & A 50 から

Q37.私はオスラー病患者ですが、安心して妊娠・出産が可能でしょうか?

A.37. 大概の妊娠出産は安心です. まず、オスラー病患者さんで流産や奇形をもった赤ちゃんが生まれる確率は、通常の妊娠と変わりがないと いわれています1).ただし、肺動静脈瘻のある方は妊娠中の合併症が多いといわれていますので、妊娠前ま でにスクリーニングを受け、治療が必要な肺動静脈瘻が見つかった場合、あらかじめ治療をしておくことが 勧められます.また、妊娠前にオスラー病ないし肺動静脈瘻の診断がついていた方は、そうでなかった方と 比べ生存予後がよかったとの報告もあります.妊娠前にスクリーニングを受けていなかった妊婦の方に関し てですが、妊娠中の肺動静脈瘻による大出血は1.4%、死亡もわずか1%と極めて小さい確率であったとの 報告がありますので、症状のない方のスクリーニングは出産後でよいのではないかと考えられます2).

そのほかの合併症である脳動静脈奇形や脊髄動静脈奇形がある場合ですが、脳動静脈奇形があっても、妊娠 により初めての頭蓋内出血の頻度は増えないといわれています3).もし妊娠中に未破裂で何の症状もない脳 動静脈奇形がみつかったとしても、出産されてから治療をするか否か検討することをお勧めします.

脊髄動静脈奇形の合併はオスラー病のわずか1%といわれています.また今のところ硬膜外麻酔で脊髄動静 脈奇形を傷つけたという報告はありません4).帝王切開をする場合には硬膜外麻酔による合併症を懸念し、 全身麻酔が選択されるケースも多いようです.硬膜外麻酔の予定であれば、MRIによるスクリーニングを検 討してもよいでしょう2).肺高血圧症を合併されている方は、その程度により安全に妊娠・出産できるか検 討する必要がありますので、主治医にご相談ください.

Q38.出産は普通の産科でいいでしょうか?

A.38. 少ないながらも上に記載したような合併症があり、合併症が起きた際には一般の産科では対応が難し いことがあるかもしれません.また妊娠中は通常、鼻出血が悪化しますし、胃腸からの出血をおこした方の 報告もあります.万が一の合併症を考え、妊娠前にスクリーニングをうけた総合病院での出産が望ましいと 考えられます.

Q39. 妊娠前もしくは出産後に全身の動静脈奇形の検索は必要ですか?

A.39. Q37で述べたように、妊娠前に必要なのは肺動静脈瘻の検索です.脳動静脈奇形は御家族に脳動静脈 奇形がある方、あるいは症状のある方にMRIでの脳の検査が勧められます.脊髄の検査は硬膜外麻酔を検討 される場合、麻酔科医と相談の上、必要となるかもしれません.肝臓の動静脈奇形はあったとしても現時点 では有効な治療法はないため、勧められません.出産後は、肺動静脈瘻の検査をしていなかった方は必要で す2).そのほかの臓器に関しては、症状のない方は急ぐ必要はないでしょう.

1) Goodman RM,et al: Outcome of pregnancy in patients with hereditary hemorrhagic tekangiectasia. A retrospective study of 40 patients and 80 matched controls. Fertil Steril. 18(2), 272-7,1967
2) Shovlin et al: Estimates of maternal risks of pregnancy for women with hereditary haemorrhagic telangiectasia(Osler- Weber-Rendu syndrome):suggested approach for obstetric services. BJOG,115(9):1108-15,2008
3)Velt S et al: Cerebro-meningeal hemorrhage secondary to ruptured cascular malformation during pregnancy and post-partum. Neurochirurgie 46(2):95-104