肺動静脈ろう

 

肺動静脈奇形 (国際ガイドラインから)


I1: 専門委員会は、


臨床医が、オスラー病の疑いまたは確定した全ての患者に、肺動静脈奇形のスクリーニングをすることを推奨します.


証拠のレベル III、(96%が同意)、推薦の強さ:強い


I2: 専門委員会は、


臨床医が、肺動静脈奇形の最初のスクリーニング検査として、造影の経胸壁超音波心エコーを行うことを推奨します.


証拠のレベル II、(96%が同意)、推薦の強さ:弱い


I3: 専門委員会は、


臨床医が、肺動静脈奇形をカテーテルでの塞栓術で治療することを推奨します.


証拠のレベル II、(96%が同意)、推薦の強さ:強い


I4: 専門委員会は、


臨床医が、治療済みまたは未治療の肺動静脈奇形を持つと記載された患者に、以下の長期にわたるアドバイスを提供することを推奨します.


1.菌血症のリスクのある手技には抗生物質を投与して予防する.

2.静脈の点滴ルートが取られている場合、空気塞栓の予防に特に注意する.

3.スキューバ・ダイビングは避ける.


証拠のレベル III、(87%が同意)、推薦の強さ:弱い


I5: 専門委員会は、


臨床医が、未治療の肺動静脈奇形の増大や治療済みの動静脈奇形の再灌流を検出するために、肺動静脈奇形を持つ患者を長期にわたってフォローすることを推奨します.


証拠のレベル II、(100%が同意)、推薦の強さ:強い


「国際HHTガイドライン第2版の臨床推奨事項と国際HHTガイドライン第1版の現在推奨されている臨床推奨事項について」Annals of Internal Medicine, 2020の和訳版から


HHT Q & A 50 から

Q10. 肺の動静脈奇形があると、どんな症状が出ますか?

A10. 息切れやチアノーゼといった低酸素血症による症状、脳梗塞・脳膿瘍(のうのうよう:脳が細菌感染 して化膿する)・心筋梗塞・心内膜炎といった奇異性塞栓によるもの、喀血(咳とともに血液が出てくる) や血胸(肺の外側に出血する)、そのほか偏頭痛・下腿浮腫・ばち指などが知られています.しかし、これ らの症状がでるのはまれで、多くの方は自覚症状が出ません.

肺動静脈奇形(もしくは肺動静脈瘻)は、肺に血液を送る肺動脈と肺から血液が送り出される肺動脈が毛細 血管を介さないで直接つながっている血管の奇形です.

肺は呼吸を司る臓器です.口や鼻から取り込んだ酸素(O2)を血液に取り込み、かわりに二酸化炭素(CO2) を血液から回収して口や鼻から放出します.もう少し具体的にいうと、全身の臓器を巡った後の静脈血が心 臓の右側の部屋(右心系)を経て肺動脈から肺に送り込まれ、肺の毛細血管で酸素と二酸化炭素を交換して 動脈血となり、肺静脈から心臓の左側の部屋(左心系)を経て全身に送り出されます. 肺動静脈奇形があると、そこを流れる血液は肺の毛細血管を通過しないため、その血液は酸素を取り込めず、 その分低酸素血症になります.その結果、息切れやチアノーゼといった症状が出ます.息切れは運動をする と出現し、静かにしていると息切れがおさまることが多いです.ただこの症状を呈する肺動静脈瘻は多くな いことが分かっています.

肺のもう一つの役割として、「血液をきれいにする」役割があります.全身の臓器を巡った後の静脈血の中 には、血栓(血のかたまり)や外部から侵入した細菌が入っていることがあります.これらを肺の毛細血管 で濾し取ることで動脈血に混じらないようにする役割があります. 肺動静脈奇形があると、そこを流れる血液は肺の毛細血管を通過しないため、血栓や細菌が混じった血液が 動脈血に混じってしまう可能性があります.そうすると血栓や細菌がいろいろな臓器にいってしまい血栓症 や感染症をおこします.これを専門用語で「奇異性塞栓症(きいせい そくせんしょう)」と呼びます.具体 的には脳の動脈にこの血栓が達してしまうと脳梗塞、細菌が達してしまうと脳膿瘍を起こします.同じこと が心臓に起こると心筋梗塞や心内膜炎をおこします.脳梗塞は体の麻痺が症状として出ますし、脳膿瘍はこ れに加えて頭痛・発熱・意識障害をおこし両方とも命に関わることがあります.心筋梗塞や心内膜炎は胸痛 や息切れなどの症状を起こしこれも命に関わることがあります.これも滅多に起きませんが発症した場合は 重篤です.

肺動静脈奇形の血管の壁はものすごく薄くなっていることが知られています.滅多にありませんが、この壁 が何らかの理由で破れてしまうと肺の中で出血します.肺の中で出血した場合は喀血(咳とともに血液が出 てくる)や血痰(痰に血が混じる)があります.肺の外側に出血した場合は、肺と肺を入れている胸郭の間 に血液が溜まり(これを血胸といいます)ひどい場合はこの血液が肺や肺の間にある心臓を押しつぶしてし まうことがあります.妊娠中に起きることが多いため気をつける必要があります.

そのほか偏頭痛(へんずつう)・ばち指(指の先が撥のように太くなる)といった症状が知られていますが、 これらが肺動静脈奇形でなぜ起こるかは今のところうまく説明ができません.

Q11. 肺動静脈瘻がたくさん有ります.日常生活で注意すべきことを教えてもらえますか?

A11.

1歯の治療(抜歯など出血を伴うもの)をしたとき、動物や人に噛まれたり引っかかれたりしたとき、屋外 で転んで怪我をしたときは、脳膿瘍予防のため抗生物質を予防内服してください. 2スキューバダイビングは空気による脳梗塞を起こす危険性があるためやめてください. 3高い山に登ったり、飛行機に長時間乗ると、急に息切れが出現することがあるので主治医の先生とよく相 談してください.

4タバコを吸っている場合は禁煙をしましょう.規則正しい生活をしてください.

1歯の治療(抜歯など出血を伴うもの)をしたときや動物や人に噛まれたり引っかかれたりしたとき、屋外 で転んで怪我をしたときに、その傷から細菌が血液に入り込むことがあります.その場合でも肺の毛細血管 をその血液が通過するときに濾し取られてそこから先に細菌がいってしまうことはありません.ところが肺 動静脈瘻があると、そこを流れる血液は肺の毛細血管を通過しないため、この細菌が混じった血液が動脈血 に混じってしまう可能性があります.そうするとこの細菌がいろいろな臓器にいってしまい感染症をおこし ます.これを専門用語で「奇異性塞栓症」と呼びますが、この中で一番恐ろしいのが脳膿瘍(脳が細菌に冒 されて化膿する)です.これを予防するために予防的に抗生物質を内服することが勧められます.どんな薬 をどのように内服するかは副作用や他の薬との相性もありますので、主治医の先生とよく相談をしてくださ い. 2スキューバダイビングをすると体に高い水圧がかかります.この影響で肺動静脈瘻内に大きな気胞(空気 の塊)ができてしまうことがあります.これが頭に達して頭の動脈を閉塞してしまい脳梗塞を起こす危険が 高いとされていますので、スキューバダイビングをすることは避けてください.

3高い山や飛行機の中は地表面よりも気圧が低く酸素濃度が薄くなっています.そのため元々肺動静脈瘻が あると低下する動脈内の酸素の濃度がさらに低下して、地表面で生活しているときには起きない息切れ、チ アノーゼといった低酸素血症の症状が出て、ひどいと急性呼吸不全になる可能性があります.主治医の先生 とよく相談をしてください.とくに飛行機に長時間乗る場合は酸素を吸いながら乗った方がいい場合があり ます.

4規則正しい健康的な生活をしてください.

Q.12.オスラー病の肺動静脈瘻にはどのような検査が必要ですか?

A12. 一般的な採血検査、胸部X線写真、心電図検査、経皮的酸素飽和度(けいひてき さんそほうわど)も しくは動脈血ガス分析などに加えて、胸部CT検査、肺血流シンチグラムもしくは100%酸素吸入試験、さら に頭部MRI検査を行います. まず胸部単純CT(必要であれば造影CT(「造影剤」という血管を見やすくする薬剤を静脈に注入しながら 撮影するCT))を撮影して、肺動静脈瘻の病変の大きさや数、それぞれの病変の構造を詳しく調べます.同 時に肺血流シンチグラム検査や100%酸素吸入試験で右左シャント率(簡単にいうと肺動静脈瘻に流れてい る異常な血液の流れの量がどれくらいあるか、ということを示す値です)を計測し、肺動静脈瘻がどのくら い悪い影響をおこしているかを調べます.経皮的酸素飽和度もしくは動脈血ガス分析も同様に動脈血の酸素 の量を見ることで、肺動静脈瘻による影響を調べる検査です. 以上の2つの検査は、肺動静脈瘻に対してどのような治療を選択していくかを決めるために行います. また肺動静脈瘻があると、症状のない脳梗塞を起こしていることがあるので、その有無を調べるために脳の MRI検査を行います.

Q13.オスラー病と肺高血圧症に関連性はありますか?

A13. はい.オスラー病に合併する肺高血圧症があります.

肺高血圧症(はいこうけつあつしょう)は何らかの理由で肺血管抵抗が上昇し、肺動脈の血圧が上昇(平均 肺動脈圧が20mmHgを超える)していることをいいます. オスラー病に合併する肺高血圧症の原因としては、ひとつは肝臓の動静脈瘻があることで心臓に負担がかかっ たり、門脈圧亢進症(もんみゃくあつ こうしんしょう)があることが原因でおこる肺高血圧症があります. もう一つは肺の動脈側の毛細血管が、明確な原因がなく血管内腔が細くなったり狭窄したりすることで肺の 血管抵抗が上昇し、それにともなって肺動脈圧が上昇することがあります.これを肺動脈性肺高血圧症と呼 びます.この肺動脈性肺高血圧症をおこす遺伝子変異がいくつか分かっていますが、この遺伝子変異の中に オスラー病の原因となる遺伝子変異と共通のものがあることが知られています.実際全体の数%程度ですが オスラー病で肺高血圧症を合併することは知られています.

Q14. 肺高血圧症といわれていますが,日常生活ではどのようなことに注意すれば良いですか?

A14. 肺高血圧症の診断と治療に精通し経験の豊富な先生の指示に従って、きちんと決められた通り内服 し、必要であれば指示通り酸素吸入をしてください.規則正しい生活をしてください.禁煙してください.

肺高血圧症は、かつては(2000年代の初めまでは)予後不良で、治療のきわめて難しい容易に死に至る病 気でした.しかしここ最近は多くの治療薬が発売され、肺高血圧症の診断と治療に精通した施設であれば5 年生存率(診断がついてから5年後に生存している患者さんの割合)は90%を超えるようになっています. 主治医の指示通りにお薬を内服(最近は吸入のお薬や皮下に注射するお薬もあります、また重症例には24 時間365日点滴する治療法もあります)してください.息切れといった自覚症状がなくても、心臓を守るた めに酸素吸入が必要と判断することがありますので、指示通り酸素吸入をしてください. あとは規則正しい生活をしてください.運動制限などは主治医の先生とよく相談をしてください.

Q15. 肺動静脈瘻があると風邪などひきやすくなったり、感染しやすくなることも多いと聞きましたが本当 でしょうか?

A15. 可能性はありますが、根拠は乏しいです.

肺動静脈瘻があると免疫が落ちる可能性を示唆する報告はありますが、その理由を明確に説明できません. ただし肺動静脈瘻があると、低酸素血症になっているため、風邪を引いた場合健常者より重症化する可能性 は高いと思います.またQ11も参照してほしいですが、脳膿瘍(脳に細菌が感染して化膿する)や心内膜炎 (心臓の内膜に細菌が感染して炎症を起こす)が起きやすいので、歯の治療(抜歯など出血を伴うもの)を したときや動物や人に噛まれたり引っかかれたりしたとき、屋外で転んで怪我をしたときに、抗生物質を予 防的に内服することが勧められます.

Q16.肺に病変があると、脳にも病気が起こるらしいですが、どうしてですか?

A16. 肺の血管には肺動脈と肺静脈があります.全身から戻ってきた血液は、肺動脈から肺の毛細血管に入 り、この毛細血管で酸素を取り入れ、肺静脈に流れ、心臓を介してまた全身に送られます. 肺の動静脈奇形が生じている部分では、肺動脈と肺静脈が直接交通する状態となっており、全身から戻っ てきた血液が毛細血管を介さずに、直接全身に送られます.そのため、この動静脈奇形を流れる血液は酸素 を取り込むことができず、呼吸苦や運動時の息切れなどが生じます. さらに、毛細血管は、血液中の血栓(血の塊)や細菌を除去するフィルターの役割も持っています.動静 脈奇形を流れる血液は、そのフィルターを通らないので、血栓や細菌が除去されず、そのまま全身に流れて しまいます.このため、血栓が脳の血管に詰まると脳梗塞が生じ、細菌が脳内に入ると脳の中に膿がたまる 脳膿瘍が生じる事があります.

Q17. 肺の病変の治療の方法とカテーテル治療は、実際どのようなものでしょうか?

A17. かつては外科的に動静脈奇形を切除する治療が一般的でしたが、最近は身体への負担が少ない、カテー テル治療が広く行われています.カテーテルとは、柔らかい細い管の医療器具であり、これを病変部分まで すすめ、治療を行うのがカテーテル治療です.肺の動静脈奇形では、肺動脈と肺静脈が直接交通する状態で すので、この異常な交通を閉塞させることが肺の動静脈奇形に対するカテーテル治療の目的です. カテーテル治療は局所麻酔で行いますので、術中、患者さんの意識はあります.一般的には足の付け根の 部分の血管から、カテーテルを挿入します.このカテーテルを肺動脈まで進めます.この際に心臓を経由し ますので動悸を感じる方もおられますが、通常はすぐに治ります.肺動脈までカテーテルが進んだら、血管 造影検査を行い、肺の動静脈奇形の場所を確認します.その後、さらにカテーテルを肺動脈と肺静脈が直接 交通している部分まで進め、器具を用いて閉塞させます.閉塞させる器具には、コイル(柔らかいバネのよ うな金属製の器具)やプラグ(メッシュ状の栓の形をした金属製の器具)があります.このような器具を留 置した後、再度血管造影検査を行い、閉塞を確認して治療を終了します. 合併症としては、術中にカテーテルに付着した血栓が肺静脈に流れ、その後心臓を経由して脳の血管に流 れると脳梗塞が生じる可能性があります.コイルやプラグが肺静脈に流れると、同様に脳梗塞が生じる可能 性があります.また、術中に動静脈奇形が破裂し、胸の中に出血が生じる可能性があります.しかし、いず れも起こる確率は非常に低いです. また、術後に、閉塞に用いた器具の隙間から血流が再開することがあります.このような場合は再治療が 必要となることがあります. 複数の肺の動静脈奇形がある患者さんは、複数回のカテーテル治療が必要になることがありますが、外科 的な手術に比べて体への負担は軽く、何度でも繰り返し行うことができます.小児の患者さんにも肺の動静 脈奇形が見つかり、カテーテル治療を施行することがあります.この場合は、全身麻酔が必要になることも あります.

Q18. 肺の血管を詰めて大丈夫でしょうか?

A18. 基本的には問題ありません.肺の動静脈奇形のカテーテル治療の際に、閉塞させる部分は肺動脈と肺 静脈と直接交通している部位のみです.この部位から正常な肺に分布する細い肺動脈が分岐している場合は、 この細い肺動脈も合わせて閉塞してしまいますが、肺の機能に大きな影響を与えることはありません.術後 に軽度の圧迫感や呼吸時の痛みが生じることはありますが、通常自然に軽快します.

しかし、オスラー病の患者さんの場合、ときに、肺動脈の血圧が高い「肺高血圧症」と診断される患者さ んがおれらます.この場合は、カテーテル治療によって肺の動静脈奇形を閉塞させると、肺高血圧症を増悪 させる可能性がありますので、注意が必要です.

Q19. コイルで塞栓治療後は定期的な診察は必要ですか?

A19. 肺の動静脈奇形に対するカテーテル治療後は、閉塞させた部分に20-50%で血流が再開することが知 られています[1,2].血流が再開した場合は、脳梗塞や脳膿瘍が生じるリスクも再発していると考えられ、 再治療が必要となります. この血流再開が生じているかどうかを診断するため、術後は定期的な経過観察が必要と考えられます.ど のくらいの期間の経過観察が必要かについては、現在のところ十分なデータは明らかとなっておりませんが、 オスラー病の患者さんについては、治療を行った病変以外の、非常に小さな動静脈奇形が大きくなってくる ことも知られております.したがって、少なくとも数年に1度は、半永久的に定期診察を受けられることを おすすめします.

1.Remy-Jardin M, et al. Pulmonary arteriovenous malformations treated with embolotherapy: helical CT evaluation of long-term effectiveness after 2-21-year follow-up. Radiology. 2006;239(2):576-85

2.Hayashi S, et al. Efficacy of venous sac embolization for pulmonary arteriovenous malformations: comparison with feeding artery embolization. J Vasc Interv Radiol. 2012;(12):1566-77

Q20. CT検査で異常なしと言われましたが,今後,新たにできる可能性はありますか?

A20. 他の所見(鼻出血、皮膚症状、家族歴)から、オスラー病と診断されなかった場合は、今後新たに肺 の動静脈奇形が生じる可能性はありません. しかし、他の所見(鼻出血、皮膚症状、家族歴)により、オスラー病と診断された場合は、CTで検出で きないような微小な動静脈奇形がすでに存在しており、それが将来的に大きくなり、CTで病変が検出され るようになる可能性はあります.オスラー病と診断された場合は、数年に1度でも結構ですので、定期的な 検査をおすすめします.

Q21. 小さな肺の血管奇形があると言われました.治療した方がいいでしょうか?

A21. 呼吸苦や運動時の息切れなどの症状がある場合や、脳梗塞や脳膿瘍の既往がある患者さんについては、 小さな肺病変でも積極的に治療を行います. これに対して、症状や脳梗塞や脳膿瘍の既往がない患者さんの、肺の動静脈奇形については、流れ込む肺 動脈のサイズが3mm以上の病変が治療適応と以前は言われていました.最近では、それより小さな病変で も、脳梗塞や脳膿瘍のリスクがあるという報告があり、カテーテルが挿入できるようなサイズであれば、治 療したほうが良いと考えられています. しかし、一方で、小さな病変は、カテーテル治療の後に、血流の再発が多いことも知られるようになりま したので注意が必要です.また、複数の肺の動静脈奇形がある場合は、大きい病変だけを治療し、小さな病 変はサイズを経過観察することが多いです.