鼻出血

 

鼻出血の管理 (国際ガイドラインから)


A1: 専門委員会は、


オスラー病に関連する鼻出血を持つ患者には、鼻出血を軽減するために、鼻粘膜を加湿する保湿の局所療法の使用を推奨します.


エビデンスの質:中程度(98%が同意)、推薦の強さ:強い(100%が同意)


A2: 専門委員会は、


保湿の局所療法に反応しない鼻出血の管理に、臨床医は経口のトラネキサム酸の投与を考慮することを推奨します.


エビデンスの質:高い(92%が同意)、推薦の強さ:強い(94%が同意)


A3: 専門委員会は、


保湿の局所療法が反応しなかった患者には、鼻粘膜の毛細血管拡張病変に対するアブレーション(レーザー治療、高周波焼却術、電気凝固、硬化療法を含む)を、臨床医は考慮することを推奨します.


エビデンスの質:中等度(83%が同意)、推薦の強さ:弱い(94%が同意)


A4: 専門委員会は、


保湿の局所療法、切除療法やトラネキサム酸の投与が反応しなかった鼻出血の管理には、全身性の抗血管新生薬の投与を、臨床医は考慮することを推奨します.


エビデンスの質:中等度(92%が同意)、推薦の強さ:強い(82%が同意)


A5: 専門委員会は、


保湿の局所療法、アブレーションやトラネキサム酸の投与に十分に反応しない鼻出血の患者には、鼻中隔皮膚形成術を、臨床医は考慮することを推奨します.


エビデンスの質:低い(92%が同意)、推薦の強さ:弱い(88%が同意)


A6: 専門委員会は、


保湿の局所療法、アブレーションやトラネキサム酸の投与に十分に反応しない鼻出血の患者には、鼻孔閉鎖術を、臨床医は考慮することを推奨します.


エビデンスの質:中程度(86%が同意)、推薦の強さ:強い(82%が同意)


以下の項目は、初版のガイドラインから


A7: 専門委員会は、


鼻出血を予防するために鼻粘膜の保湿する薬品の使用を、臨床医はオスラー病関連の鼻出血を持つ患者に助言することを推奨します.


94%が同意、エビデンスのレベル:III、推薦の強さ:弱い


A8: 専門委員会は、


臨床医が、鼻出血を持ち、治療を希望するオスラー病患者を、オスラー病の評価・治療に詳しい耳鼻咽喉科医に紹介することを推奨します.


87%が同意、エビデンスのレベル:III、推薦の強さ:弱い


A9: 専門委員会は、


鼻出血以外の理由で鼻の手術を考慮する場合、患者と臨床医は、オスラー病の鼻出血に詳しい耳鼻咽喉科医の相談を受けることを推奨します.


100%が同意、エビデンスのレベル:III、推薦の強さ:弱い


A10: 専門委員会は、


急性期の鼻出血に対する介入が必要な治療として、(例えば、潤滑性で低圧空気式のパッキングのような)除去時に再出血を起こしにくい物質や製品をもちいた鼻腔パッキングを含むことを推奨します.


93%が同意、エビデンスのレベル:III、推薦の強さ:弱い



「国際HHTガイドライン第2版の臨床推奨事項と国際HHTガイドライン第1版の現在推奨されている臨床推奨事項について」Annals of Internal Medicine, 2020の和訳版から


HHT Q & A 50 から

Q25.鼻出血の治療方法を教えてください.どうしても鼻出血が止まらない時は、どうしたらいいでしょう か?

A25.
1. 予防 オスラー病による鼻出血は、鼻内を保湿することで、軽症から重症までの患者さんまで、改善が得られます. マスクを使用したり、鼻孔に綿球をいれるだけでも効果はありますので、まずやってみることをお勧めしま す. 保湿の方法には、生理食塩水、軟膏、エストロゲン軟膏など様々あります.どの治療が最も効果が高いとい う証拠はありませんが、生理食塩水や軟膏などを使って保湿することは、副作用も少なく有効とされていま す1).

2. 自分でできる鼻出血時の対応方法 座位で、軽く下を向き、血液がのどに流れにくいようにして(口から洗面器などに出す)、ティッシュなど を詰めずに鼻翼を押さえて圧迫します. 上記の対応でも止血しにくい場合には、病院から処方してもらった止血剤(ソーブサン、アルジサイト銀な ど)を鼻孔に入れてから圧迫するとよりよいでしょう.

3. どんな時に病院に行くか? 大量の出血で貧血になった場合には、輸血が必要な場合もあるので病院を受診します.なかなか出血がとま らない際に、時として血の塊がのどを閉塞し、窒息に至る場合があります.血の塊がのどを塞ぐような場合 には、救急車を呼んで病院を受診したほうがよいでしょう.ただ、オスラー病以外の一般的な鼻出血の際に、 病院で用いられる一時止血用のエピネフリン(ボスミン)ガーゼは、オスラー病の鼻出血には効果がありま せん.このことは、一般の病院の救急医や当直医は知らないことが多いです.また、オスラー病以外の一般 的な鼻出血に耳鼻咽喉科医が通常おこなう電気焼灼も、オスラー病の鼻出血には有効でないことが多いので、 注意が必要です.

上記1、2の対応を行っても、鼻出血が多く、頻回に輸血が必要となったり、日常生活に支障をきたす場合 には、手術や薬物治療が検討されますので、専門医を受診しましょう.

4. どんな治療法があるか? オスラー病による鼻出血に対して行われる手術には、以下のものがあります1).

1. レーザー、電気凝固処置
2. 皮膚や頬粘膜による粘膜置換術 3. 血管塞栓術
4. 鼻孔閉鎖術

電気焼灼術は、処置を受ける患者さんのリスクが少なく、ある程度有効です.しかし、化学焼灼(硝酸銀な ど)やCO2レーザーは手術中の出血が止まらなくなることも多く、効果が低いといわれています1).KTP レーザーやバイポーラ電気メスが一般的に用いられます2).電気焼灼は有効ですが、鼻出血の症状の軽い患 者さんに電気焼灼を行うと、しばらくたったあと、かえって症状が強くなる場合もあるため、鼻出血がひど くなければ、早めに治療を開始する必要はないとされていま2)

粘膜置換術は、重症の患者さんで輸血の頻度を減少させ、生活の質(QOL)をある程度向上させる効果があ りますが、鼻内のかさぶたや、乾燥感の副作用があります3). 血管塞栓術は、短期的には効果はあるものの、一般的には、オスラー病の慢性的な鼻出血には効果がなく行 われません1). 鼻孔閉鎖術については、少数ですが、鼻出血が停止して、生活の質の改善に効果があったと報告されていま す.しかし、患者さんは口呼吸しかできなくなります1). 複数の専門家らは、オスラー病の鼻出血の手術治療は、熟練が必要であるため、慣れている医師が手術を行 う方が、正しい治療法の選択や、よい治療効果につながるとの見解で一致しています1).

薬物治療については、効果があることを証明する、よい研究がありませんが、エストロゲンとトラネキサム 酸については、貧血の改善効果はなかったものの鼻出血には効果があったと報告されています1).

急性期の鼻出血への初期対応(どうしても鼻出血がとまらなくて病院を受診した際の対応)についても、よ い研究報告はありませんが、鼻内に何かを詰めるということが最も多く行われています1).しかし、拡張 血管は非常にもろいため、抜く際に、再出血してしまいます.そこで、軟膏を塗ったものを詰める、空気で 膨らむものを詰めてから膨らまし、抜く前にしぼませると再出血の可能性が低くなります1).(筆者注、 海外で一般的に用いられている、空気をいれて膨らませるタイプの鼻出血止血器具は、輸入するよう働きか けてはいますが、現在、国内で販売されていません.) 鼻内に何かを詰めても止まらない重症の鼻出血に対して血管塞栓を行った報告があり、80-100%に短期的 な止血に成功しています.しかし、早期の再出血と、脳梗塞や組織の壊死などの深刻な合併症のリスクがあ ります.

1) Faughnan ME, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 48:73–87, 2011
2) Begbie ME, et al: Herediatary hemorrhagic telangiectasia (Osler-Weber-Rendu syndrome): a view from the 21st century. Postrad Med J 79:18-24, 2003
3) Fiorella ML, et al: Outcome of septal dermoplasty in patients with hereditary hemorrhagic telangiectasia. Laryngoscope 115(2): 301-305, 2005

Q26.鼻出血は、オスラー病のことをよくわかった先生にみてもらわないとダメでしょうか?

A26. はい. Q25にも記載していますが、国際的なガイドラインにおいて複数の専門家らは、オスラー病の鼻出血の手術 治療は、熟練が必要であるため、慣れている医師が手術を行う方が、正しい治療法の選択や、よい治療効果 につながるとの見解で一致しています1).よって、オスラー病の鼻出血に対しての手術が必要なほど症状が ある患者さんについては、よくわかった先生にみてもらわないとダメといえるでしょう.軽症で、鼻出血で はそれほど困っていない患者さんについては、手術・薬物治療は必要なく、専門家を受診する必要はありま せん.

一般の耳鼻咽喉科医は、オスラー病以外が原因による鼻出血は、ほぼ毎日、多くの患者さんを診療していま す.しかし、オスラー病による鼻出血は非常に稀であるため、多くの耳鼻咽喉科医はオスラー病による鼻出 血の診断及び治療の経験が非常に稀か、全くありません. また、一般的な鼻出血と、オスラー病による鼻出血への対処方法が同じであれば、専門でない先生が治療を 担当しても問題ないわけですが、通常の鼻出血には当然の治療が、オスラー病の鼻出血に対してはやっては 良くない場合があります.そのため、軽症ではないオスラー病の鼻出血には、よくわかった先生が治療を担 当すべきです.

考えられる問題点には、以下の点があります.

1. 電気焼灼治療を早期に始めすぎてしまうこと
2. 電気焼灼治療のために鼻中隔穿孔を生じてしまうこと 3. あまり効果のない治療を受けてしまう恐れがあること

鼻出血の多くは、オスラー病による鼻出血と同様に鼻内前方のキーゼルバッハ領域の血管が破綻して出血を 起こします.鼻出血で耳鼻咽喉科を受診される場合、多くは緊急事態であるため、即座に治療が開始されま す.出血を起こしている部位を電気的または化学的に焼灼して止血することが通常行われます.また、オス ラー病による鼻出血にも、電気焼灼はある程度は有効です.しかし、電気焼灼後には新生血管が増生するた め、もともと軽症の患者さんでは、数ヶ月後には、もとの状態よりも悪化する場合があります.欧米の患者 間での格言として、「できるだけ長い間、できる限りなにもしない」というものがあるそうです2).鼻出 血に対しての電気焼灼治療は、かなりひどい鼻出血か、毎日出血するなど、比較的悪化してから開始するの がよいとされています2).

次に、電気焼灼には、強い電気の熱で焼灼しすぎると、鼻内で左右の鼻孔を隔てる鼻中隔という構造に穿孔 (穴)を生じるという欠点があります.一度鼻内に穿孔が生じると、オスラー病による鼻出血の症状は悪化 してしまうことが多いため、穿孔を生じないように慎重にレーザーやバイポーラ電気メスなどを用いて焼灼 を行う必要があります.オスラー病と診断され、専門家のもとで治療をしていても穿孔を生じることはあり ますが、一般の耳鼻咽喉科には、穿孔を来たしやすいモノポーラ電気メスしか置いていないことも多いです. しかも、オスラー病の鼻出血は、通常の鼻出血には有効な血管収縮薬の効果がなく、なかなか止血しないた め、焼灼の回数や時間が長くなると、鼻中隔穿孔の可能性は高くなります. 最後に、3.ですが、オスラー病の鼻出血に対して、肺や脳の血管奇形の治療と同じ、血管塞栓治療が行われ る場合があります.短期的には有効ですので、重症の鼻出血およびそれに伴う重症の貧血などがあり、止血 しないと生死に関わるという急性期には必要な治療です.しかし、長期的には効果がないため、通常、オス ラー病による慢性的な鼻出血に対して塞栓治療は行うべきではないとされています.

1) Faughnan ME, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 48:73–87, 2011
2) Begbie ME, et al: Herediatary hemorrhagic telangiectasia (Osler-Weber-Rendu syndrome): a view from the 21st century. Postrad Med J 79:18-24, 2003

Q27.鼻の中の出血しそうな病変を毎回、焼いてもらっていますが、これでいいのでしょうか? 繰り返すことで止血困難になりますか?

A27. 条件付きで、はい. オスラー病の鼻出血で病院を救急受診して、担当医がオスラー病と知らずに電気焼灼しても止血に有効でな いばかりか、後述する鼻中隔穿孔の合併症が生じたり、治療後にかえって悪化する場合もあるので、注意が 必要です.オスラー病の繰り返す慢性的な鼻出血に対しての焼灼処置はある程度有効とされています1).た だ、一旦焼灼治療を行っても、焼いた部分の鼻粘膜が治癒する過程で、再度、新たに異常な血管が鼻粘膜に 出現するため、繰り返し焼くことが必要となります.繰り返すことで、止血困難になるということはありま せんが、オスラー病による鼻出血は年齢とともに徐々に悪化していくことが多いため、繰り返しているうち に止血困難になったと感じる患者さんもおられるかもしれません. また、焼灼治療は、鼻出血が軽症の段階で早期に開始しすぎると、むしろ悪化してしまう場合もあります. 治療の開始時期は専門家と相談の上で決定する必要があります(Q26参照). オスラー病による鼻出血には、軽症例から重症例まで、鼻内の乾燥予防を行うことが基本的に重要です.面 倒と感じて怠りがちですが、繰り返し焼いてもらっている間も、軟膏を塗る、鼻孔に綿球をいれるなどのケ アを併用することで、焼く回数、頻度を減らせる可能性があります.

焼灼治療には、鼻中隔穿孔という合併症の問題もあります(Q26参照).左右の鼻孔の間にある鼻中隔とい う構造(壁)に穴があいてしまうことをいいます.電気で焼く際に、鼻内の両面を強く焼いてしまうなどが 原因とされています.特にモノポーラというタイプの電気メスで焼くと、その可能性が高いため、モノポー ラタイプの電気メスは使わない方がよいとされています.一度鼻中隔に穿孔が生じると、気流などの問題か ら痂皮がつきやすくなり、鼻出血が悪化しやすくなります.そのため、鼻中隔穿孔をきたさないように慎重 に焼灼を行うことが必要です.鼻中隔に穿孔をきたさず、出血部の鼻粘膜を焼くための器具として、以前は KTPレーザーが最もよいとされていました.粘膜の深い部分まではレーザーが浸透しないためです.しかし 現在は世界中で販売が終了し、修理部品も製造されていないため、現在使われている施設でも故障すると使 用できなくなります.そのため、現在はバイポーラ電気メス、特に低温で焼けるタイプのバイポーラ電気メ スが使われることが多くなっています.筆者個人としても、以前はKTPレーザーを用いていましたが、これ らのバイポーラ電気メスのほうが、KTPレーザーよりも効果が高いという印象をもっており、KTPレーザー がなくなると困るということはありません.

1) Faughnan ME, et al: International guidelines for the diagnosis and management of hereditary haemorrhagic telangiectasia. J Med Genet 48:73–87, 2011 

Q28. 内服薬で効果のある薬はないですか?

A28. オスラー病の鼻出血は、鼻の中の血管の壁が脆く(もろく)なって出ます.鼻の中は薄い粘膜の下に 血管が集まっていますので、わずかな刺激でも出血しやすくなっています.血管の壁を強くする目的で、ト ラネキサム酸、ベータアドレナリン作動薬などがあります.また、女性ホルモンのエストロゲンは、血管の 壁を強くするとともに、粘膜の性質を変える作用があると言われています.しかし、重症の方にはこれらの 薬だけで鼻出血を完全に抑えることは困難です.

Q29. 鼻出血に対して日常生活で注意することを教えてください.

A29. 鼻の中の刺激をできるだけ少なくする工夫が必要です.鼻を強くかんだり、鼻くそを指でほじること は避けてください.また、適度な湿気を与えることも大切ですので、マスクの着用が両方の目的でお勧めし ます.鼻の中を水で洗うことも、固まった血液が溶けて出血の原因となりますので、好ましくありません. 高血圧、肝機能障害、腎機能障害は鼻出血を起こしやすくしますので、これらの病気の予防や治療も大切で す.抗凝固薬、抗血小板薬などいわゆる血液をサラサラにする薬は鼻出血を止まりにくくする作用がありま すが、必要で飲んでいる薬ですので、処方されている先生と十分に相談して服用の適否を決めてください.

Q30. 鼻出血以外に、どんなところから出血する可能性がありますか?

A30. オスラー病では、鼻の粘膜以外では唇や舌、口腔、咽頭の血管に拡張を認めますが、出血の可能性が 高いのは刺激を受けやすく乾燥する機会の多い唇や舌、口腔がほとんどで、咽頭からの出血はあまりありま せん.また、全身の皮膚の血管拡張が起こりますが、同様の理由で、実際に出血しやすいのは、指や顔面の 皮膚など、露出部からの出血がほとんどです.眼球から出血することはありませんが、まぶたの裏の結膜に 血管拡張がある場合は、出血する可能性があります.